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東京高等裁判所 昭和55年(行コ)87号 判決

控訴人(原告) 土屋正一 外四名

被控訴人(被告) 吉野雅久

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「(一)原判決を取り消す。(二)田無市が原判決別紙物件目録記載の土地につき所有権を有することを確認する。(三)被控訴人は、田無市に対し、原判決別紙物件目録記載の土地につき所有権移転登記手続をせよ。(四)訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上及び法律上の主張は、原判決三枚目裏末行の「本件土地の」の下に「昭和五三年四月ころの」を、同四枚目表二行目の「価格」の下に「即ち市場価格(時価)」を、同七行目の「原告らは、」の下に「昭和五四年二月一九日」を加え、同九行目の「昭和五四年」を「同年」に、同裏九行目の「東京都は」を「東京都知事は」に、同五枚目裏末行の「六日」を「二〇日までに」に改め、同六枚目裏二行目の「であり、」の下に「二か月にも満たない近接した時点における本件関連土地の買上げ価格(一平方メートル当たり金三二万円)との対比においても首肯し得るものである。なお、地方自治法二三七条二項の「適正な対価なくして」とは、その対価では譲渡人である地方公共団体に損害を与え、譲受人である相手方に不当な利益を得させることとなるような不当に低廉な価格によることを指すものと、解すべきである。」を、同三行目の「契約は、」の下に「前記のとおり田無市が、都市計画事業の施行に伴う被控訴人の生活再建のための措置として、代替地の提供を目的とするものであり、その相手方は被控訴人に特定されているのであるから、地方自治法施行令一六七条の二の一項二号にいう」を加え、同行目の「一般競争入札」を「競争入札」に、同四行目の「もので」を「ものに該当し」に改めるほかは、原判決事実摘示の第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求を棄却すべきものと判断するものであり、その理由は、次のとおり附加、訂正、削除するほかは、原判決理由摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決七枚目裏末行の「(」の下に「ただし、乙第一三ないし第二六号証の」を加え、同八枚目裏六行目から同九枚目表一行目までを削り、同二行目の「2」を「1」に、同裏二行目の「3」を「2」に、同一〇枚目表二行目の「4」を「3」に改める。

2  原判決一〇枚目表七行目の次に次のように加える。

4 当審鑑定人稲野辺良一の鑑定の結果によれば、本件市街地再開発事業区域における地元供給者側の希望価格は、右鑑定調査がなされた昭和五五年一二月当時、取引事例が皆無に近いにも拘らず、市街地再開発事業完了後の将来の良化を見込み強含みの状況にあり、実際に有効需要を換起する水準価格は、右希望価格よりかなり低額であることが窺われるが、同鑑定人は、昭和五五年における本件土地周辺の取引事例数例の取引価格に、事情補正、時点修正を加えたうえ、地域格差などによる補正をなして、昭和五六年一月の比準価格を試算し、また同時点における土地残余法に基づく収益価格を試算して、両者を関連付け、公示地及び都基準地の価格を総合考慮して、同時点における適正価格を右両試算価格の仲値にあたる一平方メートル当たり金六六万六五〇〇円と算出し、さらに地価公示価格、都基準地価格などの変動率から、本件土地の売買契約時に近接する昭和五三年四月当時への時点遡及率を七六・九%と判定して、同時点の評価額を、一平方メートル当たり金五一万二五〇〇円≒六六万六五〇〇円×〇・七六九と決定したことが認められる。

3  原判決一〇枚目裏六行目の「認められない。」の下に「すなわち、前記1、2の各評価が本件土地売買契約時に接着した時点における、附近の参考に値する取引事例などを、十分参酌した客観的公正な評価であるのに対し、前記3、4の各評価は、右契約時点から地価高騰期を経た二、三年後の時点において、そのころの取引事例が、田無市以外の土地の取引事例を多く参酌し、時点修正、地域格差による補正、公示価格の変動率など考慮して、右契約時の評価額を算出していることから、その客観的公正な評価の正確性の点において、前記1、2の評価に劣つているものと断ぜざるを得ない。さらに、地方自治法二三七条二項の「適正な対価」とは、市場価格(不動産については、流通市場の形成が不完全であるから、市場価格というものの存在に疑問がある。)又は時価を考慮することは当然であるが、なお当該取引につき、斟酌さるべき特別事情がある場合この点も参酌したうえ、結局は、相手方に不当な利益を生ぜしめない客観的公正な対価をいうものと解すべきところ、本件においては、田無市が本件市街地再開発事業に基づく都市計画を実施するため、被控訴人に対し前記認定の事情のもとに、本件土地を譲渡するに至つたものであること、田無市が買い取つた被控訴人の従前の借地の買取価格との均衡、その他前顕乙第二九号証に現われている価格決定にあたつての斟酌事情等を考慮すると、田無市が前記1、2の評価を前提として本件土地の対価につき一平方メートル当たり金三七万円と評価した価格は、同条項の「適正な対価」に該当するものといわなければならない。」を加え、同七行目の「もつとも、」を削り、同一一枚目表九行目の「2ないし4」を「1、2の」に改める。

二  よつて、原判決は正当であり、本件控訴は理由がなく失当であるからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林信一 宮崎富哉 相良甲子彦)

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